第1話

 その日、私はおたずね者となった。

「なにこれぇええ!?」

 叫び声をあげながら、私は手に持っていた新聞を目の前のテーブルに叩きつけた。
 そのまま頭を抱えて、砂がむきだしになっている地面にしゃがみこむ。

 待って待って。なにこれ。どうして私が!?

「あーあー。やっぱりこれ、おまえのことか」

 のんきな声がうしろから聞こえ、ゆっくりとふり返る。

 その声の主が、私がさっきまで手にしていた新聞を手にとる。そして、ニヤリと笑って、私に見せつけるように新聞を目の前に突きだした。

「んで? なーにしたんだ?」

 無駄な肉のないスッキリとした顔立ちのその男は、私と同じ視線になるようにしゃがみこみ、下から私の顔をのぞきこむように見つめてくる。
 茶色の切れ長の瞳と目があう。その目がおもしろがるような色を宿していることに気づいて、ムッと顔をそむけた。

「なにもしてない」
「なにもしてないわけないだろ。なら、なんでこんなもの配られる?」

 男がすこし首をかしげた拍子に、サラサラの茶髪がゆれる。

「そんなの、私が知るわけないでしょ」

 ツーンと顔をそむけると、盛大なため息が響いた。

「あのなあ。俺たちはたしかにいい人ってわけじゃねえ。だが、人様を危険におとしいれるようなことはしない。それが、この盗賊団の決まりだろ?」

 たしなめるような声に、自然と口が尖がっていく。

 そんなこと、言われなくてもじゅうぶん理解していた。だって、私は物心ついたときには、もうこの盗賊団にいたんだから。

「わかってる」
「なら、なんでおまえの特徴が書かれた手配書が出まわるんだ?」

 男が突きだしてきた新聞とともに配られた紙。
 たまに発行される罪人たちの居場所を探るための、いわゆる指名手配書。
 金額は一千万ラット。
 目玉が飛び出るような金額ではないが、ふつうの指名手配の金額にしてはいささか多すぎる。どう考えても大悪党の指名手配の金額だ。
 そして、でかでかと書かれている金額のうえには、たしかに私の特徴が書かれていた。

 澄みわたる大空のような青い髪、瞳はガラスのようなアイスブルー。

 この地で、青い髪と瞳を持つ者を、私は自分以外知らない。

 この青というのは、人が持つ色としてはとても珍しいようで、町でよく見るのは黒や茶色が多い。たまに金をみかけるくらい。

 青い髪なんて日常生活を送るには目立ちすぎて不便だろうけど、盗賊生活をしているとなかなか便利だ。
 敵をおびき寄せる囮になることもあるし、小さな子をあやすこともできる。
 だからこそ私は、みんなの役に立つこの色を嫌ったことはない。

 なかったけど、私は今はじめて、この目立つ色を心のそこから恨んだ。

 軽くウェーブしている青い髪をつまみあげた。ムッと髪を見つめていると、まるでおもちゃを取りあげるみたいに、大きな手につまんでいた髪が奪われる。

「ローゼ、なにがあったのか、話せ」
「なにって言われても……」

 一瞬頭に浮かんだ、赤い瞳。

 ほめられた行動ではないのを自覚していたからこそ気まずくて、ふいと視線をそらす。

「あのな。俺たちはおまえが人様に迷惑かけると思っちゃいねえの。家族を信じなくてどうする」

 大きな手で、髪をかき乱すように乱暴になでられた。手のひらから伝わるぬくもりがうれしくて、うつむきながらこっそり笑う。

 この男、アンドリュー・レゼッタは、私たちの兄であり、父のような存在だ。

 サラサラとしたクセのない茶髪に、日に焼けた肌。目もとはきりりとしていて、私は、アンドリューはとてもハンサムだと思っている。
 顔もいいが、なにより、アンドリューはつねに私たちを引っ張り、生きていくための道を示してくれる。
 困っているときは手を差し伸べてくれ、楽しいときは一緒に笑ってくれる。

 そしてなによりも、『生きろ』と、アンドリューはそう言ってくれるのだ。

 私たちは、世間からははみだし者と言われている。
 国の加護を受ける人たちから見たら、私たちは悪党の集まりかもしれない。

 それでも私は、この盗賊団を誇りに思っている。

 国に従い、正しく生きていくだけが聖人ではないと、私は知っている。
 表面はいい顔をしながらも死に絶える子を見て見ぬふりをする人など、世の中にはたくさんいるからだ。

 アンドリューは私よりも歳が10は上、現在は30手前らしい。
 もとは裏町に住んでいたアンドリューたち何人かが結託し、生きる道を模索したのがこの盗賊団のはじまりだと聞いている。
 盗賊団ができてからは、犬や猫を拾うように、捨てられた子どもを連れてくる。

 そうして、今のような盗賊団ができあがった。
 そして、身よりのない私たちは、この盗賊団を家族だと思っている。

 私にとって、なによりも信頼がおけるのは、やっぱりアンドリューなのだ。

「すこしずつでいい。話してみ?」
「……うん。あのね」

 やさしい声にうながされるように、私は口をひらいた。

 なにかあったか、と言われると、私はなにも悪いことはしていない、というのが正しいはずだ。

 私は髪や瞳が青く、外見がとても目立つのであまり外へはいかない。悪徳高利貸しにする色仕かけや、この青を覚えさせる囮、はたまた正反対の財宝探しの冒険。外へ行くのはそれくらいだ。
 町での買い物などは、一般人に紛れこみやすい者がやることになっている。

 私が最近町に行った用事といえば、『アレ』しかなかった。

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