第二章 第25話

 せまりくる砂嵐。それはやがて小さな竜巻となって、ラクダに乗る私たちのまえに立ちふさがった。

「ちょっとちょっとルーカス!」

 私は周囲を巻きこまんとする竜巻に慄く。こんなの、見たことない。私はまえに座っているルーカスの服を乱暴に引っ張った。

「どうされました?」
「どうされました、じゃない! まえっ、前ぇぇ!」

 私の悲鳴はゴォォと響き渡るの地鳴りのような音にかき消された。

 ひぃぃ、冗談じゃない! こんなところで死ぬなんて、そんなことっ!

 固く目をとじた瞬間、ぶわっとあたりの温度が上昇した。そして、まるで私たちを避けるかのように、私の体の両わきを突風が駆けぬけた。

「え?」

 おそるおそる目をあける。

「えええぇえ!?」

 なんと、目の前の砂が燃えていた。ゴォゴォと音を立てて激しく火花を飛ばしている。砂嵐など、どこにも見あたらない。

「えっ、なんで!?」
「炎で風の流れを変えました」
「なにそれ」
「竜巻に炎を巻きこませることによって、私でもコントロールできるようにしたのですよ」

 私は驚愕した。まさか、そんなことができるなんて。つまりは炎を操ったということなのだろう。なんとかできるなら最初からそう言えばいいものを。
 のんきに「どうされました?」なんて言うから、てっきり砂嵐に呑まれるかと思った。

 まったく、この王子はとんだお騒がせものだ。

「砂に呑みこまれるかと思った」
「すみません。大丈夫だと伝えればよかったですね」
「ほんとだよ! 今のでドッと疲れた。しかも、このラクダおっそいし! ずーっと砂漠だし」

 どれだけ目を凝らそうとも、見えるのは砂ばかり。もうこの景色を見続けて二日だった。ところどころにオアシスという名の小さな村が点々としているが、それ以外は基本的に砂だ。南に下れば下るほど、緑がすくなくなっている。
 ルーカスから聞かされていた、グランシード王国の干ばつが深刻だというのを、私は身をもって体感していた。

 首もとをつかんで、パタパタと扇いで服のなかに空気を送りこむ。空気自体が暑いので、気休め程度でしかないけれど。

「はぁーあ、私、暑いのダメみたい。ラクダにのってるだけなのに、疲れる」
「ローゼは水の巫女ですからね。暑さには弱いのかもしれません」
「そういうもの?」
「おそらく。と言いましても、水の巫女の一族については詳しくわかっておりませんので、憶測でしかありませんが」
「じゃあ、ルーカスは暑いの平気なの?」

 ルーカスは炎を司る。私が水の巫女なら、ルーカスは炎の神子というところか。

「そうですねぇ、私は暑いのには比較的強いかもしれません」
「まぁ、そうだろうね」

 今のルーカスは、頭に真っ白の布を巻いている。どうやらターバンというらしい。アジト近くの町、コンセッタで何度か見かけたことがある。あれは南から来た人たちだったのだろう。
 服もターバンに合わせたのか白で、肌の露出がほとんどない、やけに暑苦しい格好をしている。そして、そんな格好をしていながらも汗ひとつかかないという、常人とは思えない涼しげな顔を、ルーカスはしている。
 私は汗をかきすぎて額や首筋に髪が張りついて、鬱陶しくてしかたがない。

「もうすこし南に下れば、見えてくるはずですよ」
「ほんと? またオアシス?」
「いいえ」

 ルーカスはゆるく首をふって、白いターバンをなびかせながら振りかえる。

「この国、グランシード王国の王都、シュミラークですよ」